大阪、平8不36、平10.12.28        
          命 令 書

   申立人 全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
   被申立人 浅井運送株式会社
   被申立人 B
   被申立人 C
   被申立人 D破産者浅井運送株式会社破産管財人


主 文
1 申立人の被申立人B及び同Cに対する申立を却下する。
2 申立人の被申立人浅井運送株式会社及び同破産者浅井運送株式会社破産管財人Dに対する申立てを棄却する。

理 由
第1 認定した事実
1 当事者等
⑴ 被申立人浅井運送株式会社(以下「会社」という)は、肩書地に本社を置き、一般貨物自動車運送を業としていた株式会社であるが、平成8年7月8日、大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という)に自己破産の申立てを行い(以下「本件破産申立て」という)、同月29日、破産宣告の決定(以下「本件破産宣告」という)がなされ、本件審問終結時破産手続中である。本件破産宣告時における会社の従業員数は14名で、全員が運転手であった。

 会社は、昭和35年8月3日に有限会社浅井運送店として設立され、同40年から申立外大阪セメント株式会社(以下「大阪セメント」という)の専属運送会社として、同社のバラセメントを特約販売店に運送する業務を行っていたが、その後、同51年12月23日に株式会社に組織変更したものである。

 なお、会社の関係会社として、申立外浅井石材株式会社、同阪和運送株式会社、同三和株式会社及び同株式会社九櫻(以下、これら4社を一括して「関係4社」という)がある。

⑵ 被申立人Bは、会社の代表取締役である(以下、同人を「B社長」という)。
⑶ 被申立人Cは、会社の専務取締役であり、関係4社の代表取締役を兼任していたことがあった(以下、同人を「C専務」という。なお、同人はB社長の長男である)。
⑷ 被申立人破産者浅井運送株式会社破産管財人D(以下、「管財人」という)は、本件破産宣告に伴い、平成8年7月29日に大阪地裁により選任された破産管財人である。

⑸ 申立人全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「組合」という)は、肩書地に事務所を置き、関西地区において主にセメント、生コンクリートの製造及び運送に従事する労働者で組織する労働組合で、その組合員数は本件審問終結時約1,800名である。

 会社には、組合の下部組織として浅井運送分会(以下「分会」という)があり、その分会員数は、本件破産宣告時においては14名であったが、本件審問終結時には10名である。

 会社には、組合のほか、会社の従業員で組織する企業内労働組合である浅井運送労働総合(以下「別組合」という)があった。
 平成6年10月、別組合は組合と賃金等に係る共闘関係を確立し、同7年の春闘では、この両労働組合の賃上げ額が同額となった。
 また、同8年5月27日、別組合は、病気休職していた別組合の組合員の復職を巡り、結成以来初めてストライキを行ったが、同ストライキは、組合による会社と別組合との間の仲介により終結した。

 同年7月11日、別組合が解散し、その組合員全員(8名)が組合に加入した結果、会社における労働組合は分会のみとなった。

2 分会結成及び労働協約の締結に至る経緯
⑴ 昭和51年、会社従業員Eが、組合加入後会社から解雇通告を受け、組合は同人の解雇撤回闘争を行った。同人の解雇は撤回され、これを契機として同年7月21日に分会が結成された。

⑵ 昭和52年5月17日、組合と会社との間で基本的な労働協約である「1977年賃金その他に関する協定」が締結された。同協定には、「組合員の賃金・労働条件の変更等については、労使が協議して解決するものとする」という条項(以下「事前協議条項」という)がある。

3 会社の業績悪化及び組合による取引先との交渉
⑴ セメント業界の構造的不況と再編の動きの中で、大阪セメントの会社に対する注文の減少等により会社の業績は悪化し、平成6年度(同5年8月から同6年7月)会社決算では約1,417万円の損失金が生じていた。

 同年10月、大阪セメントは、申立外住友セメント株式会社と合併して住友大阪セメント株式会社(以下「住友大阪セメント」という)となったが、同7年1月、住友大阪セメントは会社に対し、経営合理化の一環として一方的に15%以上の運賃引下げを実施した。

⑵ 平成7年2月7日、C専務は組合書記長F(以下「F書記長」という)に対し、このまま運送量減少及び運賃引下げが続くならば会社の倒産は必至であると告げた。
 これに対し、F書記長は、組合が住友大阪セメントと運賃の回復について交渉する旨を申し出た。
 また、同書記長は、車庫費、管理費等の固定費について、旧住友セメント系の運送会社は車庫等の提供を受けることによってその費用を軽減されていることを根拠に、組合が住友セメントに対して会社の固定費を補填してもらう交渉を併せて行う旨を述べた。

⑶ 組合と住友大阪セメントとの交渉の結果、平成7年2月15日までに会社について上記⑵記載の固定費が補填されることになったが、同日、C専務はF書記長に対し、固定費を補填してもらったとしても、会社は依然として損失が生じて倒産に至らざるを得ないと述べた。
 これに対し、同書記長は、組合が会社の損失分についても別途補填するように住友セメントと交渉する旨述べた。しかし、この損失補填は実現されなかった。

⑷ 平成7年4月及び同年8月、組合は、組合と住友大阪セメントとの交渉で同年1月からの運賃引下げを遡及して撤回することに合意したと主張したが、住友大阪セメントは、この合意の成立を否定し、運賃引下げの撤回はなされなかった。
 このため、組合は、住友大阪セメントの工場等において出荷業務に従事することを拒否する闘争を行った。この出荷業務の停止により、会社の運賃収入は更に約879万円の減収となった。

 なお、その後、組合と住友大阪セメントとの交渉の結果、この減収分回復のため運賃の上乗せがなされたが、減収分の完全な回復には至らなかった。

⑸ 平成6年度から同8年度の会社決算では、次表のとおり、毎年度損失金を生じていた。その結果、同8年6月30日現在の累積損失金は、1億1,722万4,157円になった。

事業年度 損失金

(注1)平成6年度は損失金であり、同7年度及び同8年度は未処理損失金である。
(注2)同8年度については、同年7月分が含まれていない。

4 会社の株式、資産及び営業の売却交渉
⑴ 平成7年12月、C専務は組合副委員長G(以下「G副委員長」という)に対し、同6年度決算報告書を示しその内容を説明した上、このままでは会社は経営不能となり倒産に至ることとなるので、組合に会社の全株式、全資産及び営業の売却(以下単に「会社売却」という)先を捜してもらいたいと依頼した。これに対し、G副委員長は、組合で会社売却先を捜す旨を返答した。

⑵ 平成8年3月16日、C専務はG副委員長から、会社売却先が見付からないとの説明を受けた。このため、同年4月9日、会社は、申立外大阪生コン株式会社(以下「大阪生コン」という)の社長Hに対し、会社売却先を捜すことを依頼した。

 同月20日、同社長の仲介により、会社と申立外西井商店との間で会社売却についての交渉が開始されたが、住友大阪セメントが会社売却先との運送業務契約の継続を認めなかったため、結局この交渉は不成立に終わった。

⑶ 平成8年5月13日、C専務はG副委員長に対し、西井商店との会社売却交渉が不成立に終わった以上、会社の前途は倒産か、現状のまま組合が引き受けるか、のいずれかしかない旨述べた。

 これに対し、G副委員長は、事態の重大性に鑑み、組合執行委員長同席の場でそのことを重ねて組合に申し入れるように提案した。

⑷ 平成8年6月6日、C専務は、組合事務所を訪れ、組合執行委員長AG副委員長に対して損失の現状、会社売却交渉の経緯等を説明し、「これ以上会社をやっていけない。会社を売却したいので、売却先を紹介してほしい」旨を申し入れた。

 これに対し、組合は、会社の現状を把握するため関係4社を含めた決算報告書等の経営資料を提出するように要求した。

⑸ 平成8年6月22日、C専務と組合との協議が再度行われたが、C専務は、組合が要求していた関係4社の決算書類等を持参せず、その後も関係4社の決算書類等を組合に提出しなかった。

 上記協議の席上、組合はC専務に対し、
①会社売却に当たっては、土地の担保及び負債を解消すること、
②関係4社についての経営状況を明らかにすること、
③近畿バラセメント輸送協同組合が近々発足するので、同協同組合に加入することにより経営安定を図ること、等の提案(以下「6.22提案」という)を行った。

 近畿バラセメント輸送協同組合とは、荷主のセメント会社との運賃に関する集団交渉の実現及び運送の効率化を目指した、バラセメント運送業者による中小企業協同組合法に基づく協同組合であり、同年9月に発足したが、会社はその結成に準備段階から参加していた。

 C専務は、6.22提案について検討の上、見通しが立てば協議日程を組合に連絡することを約束したが、その後、組合に何の連絡もしなかった。

5 本件破産申立て及び従業員の解雇等
⑴ 平成8年7月8日、会社は本件破産申立てを行った。その申立書に記載された破産の理由は、
①取引先である住友大阪セメントが、経費削減の一環として会社に対して運賃引下げを行ったこと、
②大阪セメントの会社に対する注文の減少等により損失金が生じていた中で、住友大阪セメント発足後更に売り上げが減少し、損失金が増加したこと、
③この結果、累積損失金は同年6月30日現在で約1億1,722万円となったこと、
④消極財産額(負債)が積極財産額(資産)を上回り債務超過になること、
⑤振出済みの複数枚の約束手形が、同年7月10日以降、当座預金残高不足のため不渡りとなる可能性が大きいこと、であった。

 なお、同月22日、上記④の財産額について整理し直した「債権債務表」と題する同月8日現在の貸借対照表が大阪地裁に提出された。
 これによると、会社の負債総額は約3億4,648円、資産総額は約1億7,553万円で、債務超過額は約1億7,095万円とされている。この負債総額には、組合員を含む全従業員の解雇予告手当金約1,117万円及び退職金約2億3,131万円がそれぞれ計上されている。

 上記⑤の約束手形は、同月10日以降、順次不渡りとなった。

⑵  平成8年7月15日、B社長及びC専務は、同日の業務終了後、全従業員を集め、輸送量の減少、取引先からの運賃引下げ等により会社の経営が悪化していること、及び取引先への運賃引下げ撤回要求、会社運営に係る組合との協議等の会社の取組について説明するとともに同日支給予定であった同年夏季一時金については同月末に支払う旨を述べた。

⑶ 平成8年7月19日、会社は全従業員に対し、同月20日付けで解雇する(以下「本件解雇」という)旨の解雇通知を郵送した。

 また、同日、C専務はG副委員長に対し、本件破産申立てを行ったこと及び従業員に解雇通知を郵送したことを告げた。G副委員長はこれに抗議し、解雇通知を回収するように求めたが、C専務は既に郵送しており、回収は不可能であると返答した。

⑷ 平成8年7月29日、大阪地裁は、本件破産宣告を行い、破産管財人にDを選任した。同年8月26日、分会員14名は大阪高等裁判所(以下「大阪高裁」という)に、破産決定に対する即時抗告を申し立てたが、同年12月26日、大阪高裁は即時抗告を棄却する決定を行った。

⑸ 平成8年8月30日、組合は当委員会に本件申立てを行った。

⑹ 管財人は分会員13名に対し、平成8年9月10日付けて内容証明郵便で会社が本件破産宣告を受けたことによりその事業継続が不可能となり労務が存しなくなることを理由に、同日付で予備的解雇を行う旨を通知した。

⑺ 平成8年10月7日、本件破産宣告に係る第1回債権者集会において、分会員ら多数債権者が会社の営業を継続すべき旨の決議を行ったが、大阪地裁は同日付けで、「営業継続により破産財団に利益をもたらす見込みがあるとは認められない」として職権により上記決議の執行禁止を決定した。

⑻ 平成9年1月16日、組合及び分会員10名は大阪地裁に対し、慣行による労働組合への解決金及び慣行ないしは黙示の合意に基づく退職金加算金を含む破産債権届出書を提出した。
 これに対し、管財人は、同月17日の債権調査期日において、上記の解決金及び退職金加算金について一部異議を述べたため、組合及び分会員10名は大阪地裁に破産債権確定請求の訴えを提起したが、同年12月24日、大阪地裁は、請求を棄却する決定を行った。

6 請求する救済の内容
 組合が請求する救済の内容の要旨は、次のとおりである。
⑴ 本件解雇及び平成8年9月10日付け管財人による解雇の撤回、並びにバック・ペイ
⑵ 会社は、B社長及びC専務による謝罪文の掲示

第2 判 断
1 本件の調査及び審問において、会社は主張及び立証を一切行わず、また、B社長及びC専務は、答弁書等の主張書面及び書証を提出したものの、調査及び審問の期日には出頭しなかった。

 組合は、B社長及びC専務の不出頭を理由として、同人らの提出した上記書面等を労働委員会規則第33条第3項(審査指揮権)に基づき排除すべきである旨を主張するが、会社の不当労働行為の成否は審問の全趣旨によって判断されるべきものであるから、上記書面等はB社長及びC専務の主張及び立証として採用することが相当である。

2 本件解雇について
⑴ 当事者の主張要旨
ア 組合は、次のとおり主張する。
(ア) 会社は、身分、賃金、労働条件等の問題については、事前に組合と協議して労使合意の上円満に実行する旨の事前協議事項が存在しているにもかかわらず、これを無視し、協議を行わないまま組合に
秘して本件破産申立てを行い、分会員らの自衛措置を講じさせないようにして分会員全員に対する本件解雇を行った。

(イ) 本件破産申立ては平成8年7月8日に行われたが、本件解雇の意思表示は同月20日になされているのであるから、本件破産申立ての時点では、会社に解雇予告手当て及び退職金を支払うべき義務は発
生しておらず、会社の消極財産額(負債)からこれらを除くと本件破産申立て時には債務超過の事実は発生しないことになる。
 会社は、債務超過という破産原因が存在しないにもかかわらず本件破産申立てを行い、事業を閉鎖したものである。

(ウ) 会社が、このように組合との間で合意した事前協議条項を無視し、また、組合に秘したまま破産申立理由のない本件破産申立てを行い、本件解雇を強行したのは、平成8年5月27日に別組合が結成以来初めてストライキを敢行した際に組合がこれとの共闘・連携関係を持ったことによって組合を嫌悪してなされた不当労働行為である。

イ B社長及びC専務は、次のとおり主張する。
(ア) 会社の本件破産申立て及び本件解雇は、住友大阪セメントからの注文の減少や運賃引下げにより会社の経営が悪化したことによるのであり、会社としては倒産という事態にならないように可能な限り
の努力を尽くしたが、万策が尽きた結果として生じたのであり、組合を嫌悪したための解雇ではなく、不当労働行為ではない。

(イ) 事前協議条項の対象には、組合が主張している「身分」は含まれておらず、本件破産申立てに伴う本件解雇は事前協議の対象ではないが、会社は、会社の運営について誠心誠意をもって組合と協議を
重ねた。

⑵ 不当労働行為の成否
ア 会社の経営状況は、前記第1.3、4及び5⑴認定のとおり、
①大阪セメントの発注の減少等により、既に平成6年度には会社に約1,417万円の損失金が生じていたこと、
②同7年1月、住友大阪セメントから会社に対して15%以上の運賃引下げが行われ、結局、同年度には会社に約5,777万円の未処理損失金が生じたこと、
③こうした事態を打開するため、会社から相談を受けた組合も住友大阪セメントと種々交渉したが、会社の上記経営不振を挽回することはできなかったこと、
④同年4月及び同年8月、住友大阪セメントの工場等において組合が出荷拒否闘争を行ったため、会社に更に減収が生じ、住友大阪セメントからの補填によってもこの減収分は完全には回復しなかったこと、
⑤同8年度には、会社に約4,529万円の未処理損失金が生じ、同年6月30日現在の累積損失金は約1億1,722万円となったこと、
⑥こうした経営不振の中で、同7年2月以降、会社は組合に対し、倒産は必至であるとして会社売却を含めて今後の会社の運営について組合と協議を重ね、会社売却先の紹介を組合にも依頼したものの売却先を見付けることができず、また、大阪生コンの仲介による西井商店との会社売却交渉も不成立に終わったこと、
⑦本件破産申立て時には会社振出しの約束手形の不渡りが見込まれ、同8年7月10日以降現実に不渡りが発生したこと、がそれぞれ認められる。

イ また、本件破産申立て以降の経過も、前記第1.5⑷及び⑺認定のとおり、
①分会員らは、平成8年8月26日に本件破産宣告に対する即時抗告申立てを行ったが、同年12月26日、大阪高裁は即時抗告を棄却し本件破産が確定したこと、
②同年10月7日、本件破産宣告に係る第1回債権者集会において、会社の営業継続が決議されたが、同日大阪地裁は営業継続により破産財団に利益があるとは認められないとして当該決議執行禁止の決定を行ったこと、がそれぞれ認められる。

ウ 以上の事実からすると、会社は、平成8年6月30日現在でその累積損失金が約1億1,722万円になるなど業績が著しく不振となった状況において、会社売却交渉等の努力を尽くしたがこれらも不成立となった結果、万策尽きてやむを得ず本件破産申立てを行ったものと判断するのが相当であり、その後、本件破産決定は上級審の審理を経て適法に確定している。
 したがって、本件破産申立て及び本件破産決定に伴う本件解雇は会社の経営状況からみてやむを得なかったものであり、不当労働行為とは認められない。
 また、本件破産申立て及び本件破産宣告に伴う本件解雇が、会社の組合嫌悪によって行われたものであるとの疎明はない。

エ また、組合は、会社が事前協議をせずに本件解雇を行ったことは不当労働行為である旨主張する。
 確かに、前記第1.2⑵、4⑸、5⑵及び⑶認定のとおり、組合と会社との問には事前協議条項が合意されており、本件解雇のような場合にはこれに基づく協議が必要であると解されるところ、会社は本件破産申立て前には破産申立てについても本件解雇についても組合との間で明示的な事前協議を行った事実はない。

 しかしながら、前記第1.3⑵、⑶及び4認定のとおり、C専務は組合に対し、平成7年2月以降、会社が倒産に追い込まれるまでに経営状況が悪化していることを再三説明し、さらに、同専務は、経営改善、会社売却等倒産回避のための対策について組合に相談し、その協力を求めていること、組合はこれに応じて取引先との交渉あるいは組合役員による会社売却の仲介等の努力をしたが、結果として会社の経営を改善することができず、会社売却も成功しなかったこと、がそれぞれ認められる。

 このように、会社が倒産回避のために組合との間で長期間にわたり度々協議を重ねてきた事実は、実質的にみれば十分事前協議を行なったものと評価することができるのであり、会社が組合との間で殊更明示的に事前協議であるとした交渉を行わなかったことをもって事前協議条項を無視した不当労働行為であるとみることはできない。

3 B社長及びC専務に対する申立てについて
 組合は、B社長及びC専務には個人資産があり、かつ、同人らは会社の実質的経営者であるので、労働組合法上の使用者に当たると主張するが、本件について、会社が法人として形骸化しているなど両名に対して使用者としての責任を問うに足る特段の事情があったと認めるべき疎明はないから、組合のこの点の主張は採用できず、したがって、両名に対する申立ては却下されるべきものである。

4 管財人に対する申立てについて
 破産管財人は、破産財団の財産管理を行う限度において労働関係上の諸利益に対して実質的な影響力ないしは支配力を及ぼす地位にあるから、破産財団の財産権の変動に係る事項については、労働組合法弟7条にいう使用者の地位にあると解すべきものである。
 したがって、破産管財人は、管財人として選任された後は自らがなした不当労働行為責任を負うとともに、破産宣告以前に破産会社がなした不当労働行為に伴うバック・ペイ等の金銭債務についても破産会社の責任を引き継ぐものである。

 これを本件についてみると、前記第1.5⑷及び⑹認定のとおり、平成8年9月10日に管財人は分会員に対して予備的解雇を行っていることが認められるが、これは適法になされた本件破産宣告に基づいて管財人の職責を果たすために破産手続きの一環としてなされたものと判断されるので、この点について管財人に不当労働行為は認められない。

 また、前記2⑵判断のとおり、本件解雇は有効であり、かつ不当労働行為に該当しないもいのであるから、組合ないしは分会員に対する不当労働行為に伴うバック・ペイ等の会社の金銭債務は発生せず、会社から管財人に引き継がれるべき不当労働行為に係る債務はあり得ないので、この点においても管財人に不当労働行為上の責任はない。

 以上のとおりであるから、本件において管財人に不当労働行為はなく、組合の管財人に対する申立ては棄却されるべきものである。
 以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条並びに労働委員会規則第34条及び第43条により、主文のとおり命令する。

平成10年12月28日
大阪府地方労働委員会
会長 川合 孝郎

※バック・ペイ
 労働委員会が労働者の解雇を不当と認めた場合、使用者が支払う復帰時までの賃金。

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